小児心臓血管外科医と大人の心臓血管外科医は違う。
ザックリ言うと、大人の心臓血管外科医というのは『正常な心臓』に何か不具合が起こったときに外科的アプローチを行う。
それに対して小児心臓血管外科医というのは先天性心疾患をはじめとする『心奇形』に対しての外科的アプローチが圧倒的に多い。
奇形ではなく血管が狭い・部分的に穴が空いているとかでも、まだまだこの世界で生きていくのに不安定なちっさい赤ちゃんのちっさい臓器・血管を相手にするのだ。
拡大鏡を使うにしてもなんで見えるん?なんで縫えるん?米粒に絵を描くひとなん?
それは循環器内科医でも同じである。
小児科としての循環器内科医と、大人の循環器内科医では診るものが違っている。
でも同じ循環器内科医なんだから分かるでしょ?治療できるでしょ?と思うかもしれないがそう簡単なものではない。
私のおじ(母の兄)がまさに大人の循環器内科医だが、息子の病名を伝えたとき『教科書ではやった記憶があるけど、具体的にそれってどんな状態なの?』と聞いていた。
おじ(もう70歳だけど)はとても賢い人なので、説明してその場ですぐ何となくは理解はしてくれたけれど「心奇形は難しいよー、、、」と言っていた。
心奇形にもいろいろな名前がついていて分けられてはいるものの、同じ病名であっても身体の中の状態(血管の繋がりかたなど)は本当に人それぞれだ。
だから同じ術式名称であっても、そのやり方・内容は患者それぞれで違うのだ。
ぶっちゃけ私は、小児心臓血管外科医と小児循環器内科医の脳みそは人間離れした超絶天才臓器なんじゃないかと思っているくらいである。
全く関係ないが、術前説明の際に外科医が途中からノッてくる感じや病状説明の時にどんどん口から説明が溢れ出てきて止まらない感じが私は結構好きだ。
『先生、だいぶノッてきたなぁ、、、楽しそうだなぁ笑』と、中2のヲタク君を相手にするがごとく温かい目で見守っている。
命がかかってる事なのにけしからん!みたいなのは私は全く思わないね。
患者家族に対してぞんざいな態度を取ってるわけでもないし、医者になった理由が誰しもが『患者さんを助けたい!』なわけでもない。
手先が器用だからとか、身体の作りに興味があるからとか人それぞれだ。
仕事を真面目にこなしてその結果、たくさんの人が助かればそれでいいじゃないか。
患者さんの気持ちにはめちゃくちゃ寄り添うが外科医としての技術が最悪だったり内科医としての知識も力量もない人より私はよっぽどいい。ノリノリになって知的好奇心たくさんの人の方が。
もちろん両方備わっていたらなお最高だし、息子が転院した先で執刀医である小児心臓血管外科医(超有名な人)は実際に人格も技術も素晴らしい人だけどね。
うちのおじさんなんて小さい頃から頭が良くて国立大工学部を卒業したあとに、『お前は医者になれ』って言う毒祖父のいいなりでこれまた国立の医学部再受験しただけっていう理由だけど、患者さん想いのいい町医者やってるよ。
そんな医者の中でスーパーミラクル賢い勢に君臨する小児心臓血管外科医でも『なかなか理解できない人がいると思う』という状態を手術中に作り出したのが息子の執刀医である。
先天性心疾患は、今では助かり成人できる人が多い病気になってきている。
そんな中でも息子の先天性心疾患(の病名)は、未だに『予後不良』とされる組み合わせなのだ。
無脾症候群。
この病気に『総肺静脈環流異常症』という状態を併発して生まれてくると、かなり予後が悪くなってくる。
息子は『単心室症』というのも持っているのだが、無脾症+単心室の組み合わせで元気に大人になっている人は大勢いる。
無脾症以外の病名+『総肺静脈環流異常』の人また然りだ。
だが、無脾症+総肺静脈環流異常というのは本当に最悪の組み合わせなのだ。(この場合の多くは息子と同じように単心室症も併発しているそうだ)
そんな息子になんとか未来を繋いであげたいと、執刀医は熟考に熟考を重ねて術式や細かいオペ内容を決めて手術に臨んでくれた。
だが、いざオペをしてみると思った通りの結果にならない。
どうしたら悪い状況を打破できるのかオペをしながら考えトライし、それがダメならこっちの方法ならどうだとトライして、何がなんでも助けるんだ、この子に未来を繋いであげるんだと15時間にも渡り立ちっぱなしで手術を続けてくれた。
だがその内容はあまりにも複雑過ぎて、初見では小児心臓血管外科医でも理解できない人がいるだろうと執刀医から言われるほどの完全息子専用術式であった。
私自身は息子がどんな循環状態で生まれてきてどんなオペを経て今現在の形になったのか知っているしかなり勉強をしたから理解できるが、そうじゃない人にはキョトン顔案件かもしれない。
息子は今後、移行期を迎えて高校生あたりからは小児循環器内科から成人先天性心疾患の科へ変わることとなるしそれに伴い病院も変わることになる。
その際、紹介状には超細かいことは書かれないと思われる。
現在までの全オペ記録(文書)や現在どのような体内循環になっているかの手術記録の絵や3DCT画像などが一緒に渡ればよいのだが、恐らくそこまで細かい情報までいかない可能性がある。
今までの紹介状経験からして。
そうすると、全ての治療履歴をしっかり手元に置いた上で、できることなら私が完璧に次の主治医に状態(内部の)説明をできるのがベストなのだ。
執刀医からも『必ず全てのカルテを開示請求して手元に持っていて下さい。それが、息子くんにとっての親御さんからのとても大切なプレゼントになります』と言われた。
我が家は過去全ての外科手術記録と治療履歴を開示請求し手元に持っている。
しかし最後のオペなどもう8年近く前の話だから、記憶はどんどん薄れていく。
治療・手術履歴のデータ(開示したオペ記録や画像などなど全て)を時系列にファイリングし、自分に分かりやすいように要所要所にコメントをつけたり、その時々の心臓と肺と血管の繋がりかたの絵を書いたりしてまとめあげてある大量のファイルを引っ張り出し、定期的に確認し直すのが母として大事な仕事の一つである。
今日もまた
このタイミングで右側上大静脈に血栓が詰まって使えなくなって、、、
上行大動脈に人工血管縫い付けて◯センチ延長させたことで圧が抑えられて循環が成立して、、、
などとブツブツ再確認の1日であった。
いくら外科的治療が2度と出来なくても、内科的な服薬治療だけでも、状態をきちんと把握していることで主治医に意見も提案も疑問を投げることもできるのだ。
私はただただ、息子が痛みを感じたりすることなく笑顔でいられる状態を少しでも長く保ちたい。