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息子トラが気管切開することになった理由

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気管切開児名物・吸引祭りと、貞子

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上記記事で息子トラが気管切開孔を閉じた時の話にほんの少しだけ触れた。

トラは3歳半まで普通に声を出せていた子だ。

生まれつき完全気管輪(かんぜんきかんりん)という状態ではあったが、気管狭窄症や軟化症だったわけではない。

内臓錯位症候群の一つである無脾症候群(むひしょうこうぐん)で生まれたトラは、身体の臓器が右側のもので構成されている。

人体模型図くんを見ると分かるが、本来人間の臓器は左右非対称だ。

だが無脾症候群で生まれた子供は存在すべき左側の臓器がなく、その代わり右側の臓器が左側にもある。

左側にあるはずの脾臓(ひぞう)が存在しないので「無脾症(むひしょう)」と命名されたのであろう。

肝臓が左側にもグワーッと広がっていて「肝臓オマエどんだけ自己主張強いねん」状態だったり、心臓が右向きだったり。

心臓の心室が一つしかない「単心室(たんしんしつ)症」を伴うのも無脾症候群の特徴である。

息子トラの先天性心疾患(複雑心奇形)は、無脾症候群にともなう合併症なのだ。

この無脾症候群は難病指定にもなっており、小児慢性特定疾患の受給者証をしっかりちゃっかりゲットしている。

先天性心疾患を伴わない無脾症候群も存在するが、その場合は亡くなって解剖したときに脾臓がないことなどが発覚し「ありゃ、この人無脾症だったわいな」と分かる場合もある。と、無脾症候群について英語で書かれた小難しい論文に書かれているのを読んだことがある。

そんなこんなで基本的な型からはいろいろと外れている身体で生まれてきた息子トラだし、完全気管輪だと言われても「呼吸には特に問題ありませんぜ」と言ってもらえていたので「そうっすか」くらいでそこまで気にしていなかった。

しっかりカルテにも載っていたが医師たちもそこまで気にしていなかった。

若干狭い部分は指摘されていたが、身体が大きくなれば狭いところも比例して太くなっていくから大丈夫と言われて「そうっすか」と安心していた。

そのくらい特別仕様の身体なので、いろんな臓器が「通常とは異なる」と言われても「でしょうね」という感覚。

実際、気管切開が必要となった場所の狭窄は全く別の場所に発生していて、指摘されていた狭い部分とはなんの関係もなかったのだ。

ついでに11歳となった現在においても、元から指摘されていた狭窄部のことなど私以外みな忘れているんじゃないかくらい忘却の彼方でなんの悪さもしていない。

気管切開の原因は人工呼吸器の挿管によってついてしまった傷

息子トラが気管切開する原因となったのは、心臓手術の際に口腔内から挿管された人工呼吸器だそうだ。

「呼吸器を挿管する際に声門下を傷つけてしまい、そこが浮腫み腫れ上がったまま気道を塞いでしまったのだろう。」と、心臓血管外科の担当医は言っていた。

いやそれ麻酔科医の医療ミスじゃん。

って思うだろう。

私もそう思った。

だが、訴えることはしなかった。

例え訴えても無駄だっただろう。

そのための「術前同意書」だ。

呼吸器挿管による危険性も同意書には書かれている。

同意しなければオペをしてもらえないのだ。

我が子の寿命を伸ばすために同意するしか道はない。

それに、麻酔科医だってわざと傷つけたわけではないだろう。

慎重に慎重に入れてもなお、傷付いてしまい、そして浮腫んでしまうくらいの状態だったのかもしれない。

3歳半というその時点で、息子トラの口腔からの人工呼吸器歴はおそらく10回を超えていた。

生まれ落ちた翌日から10時間を超える手術を何度も受け、軽い手術を含めるとそのくらい容易に到達していたのだ。

そのくらいのオペを繰り返してもなお良くならず、ギリギリの状態だったトラの身体を、チーム内から反対の声が出ていたほどのオペを、トラの未来のためにと決行してくれたのだ。

この時のオペは朝9時から夜中1時過ぎまで続いた、とてつもなく難しく大変な心臓手術だった。

同じ無脾症、同じ単心室、同じ総肺静脈還流異常症、同じ手術名でも、他の子達とは全く異なる手術内容だった。

複雑心奇形の心臓は、胸を開いてみてから「思ってたんと違う」ということが多分にある。

もちろん事前に3Dで細かくCTを撮影したりしているが、やはり実際に見て「なんてこったい」「なんでこんなとこに血管があんねん」「なんでこの血管、上の血管から押しつぶされてんねん血圧やばいやん」みたいなことだってある。

そんなとき、医師達はその場でベストな策を急いで考え、親に説明し同意を得て再度手術室へ向かうのだ。

小児心臓血管外科医というのは本当にとんでもない脳みその持ち主たちである。

医者の脳みそがどうなってんねん。

そんな頭脳集団の相手は複雑心奇形だ。

正常な形・正常な配置の心臓に異常をきたしている状態とは訳が違う。

一人ひとりがスペシャルエディションだ。こんな余計なエディションやめて欲しい。

もともと弱っている小さな身体の中にある更に小さなスペシャルエディション心臓を一時停止させ、切って縫合して切って縫合して新たな循環を作り出して寿命を伸ばすために一生懸命働いてくれているのだ。

術後も1ヶ月半ものあいだ集中治療室から出られず、手術室へ移動する時間がないほどの緊急オペが集中治療室で行われたり何度も生死を彷徨ったほどのトラの状態。

だから、誰がどんなに注意しても気管切開になっていたのかもしれない。

誰かを責めたりしたくなかった

みんな本当に一生懸命だった。

縁もゆかりもないトラのために自分たちの睡眠時間を削って助けようとしてくれていたのだ。

だから、誰かを責めたりしたくなかった。

給料もらってるんだから。医者なんだから助けて当たり前。そんな考えをしたくなかった。

医者だからという理由だけで、あそこまでのことは出来ない。

勤務医の給料なんてたかが知れている。

重すぎる責任と労働時間に見合わない給料で働き続けるなんて、私にはきっとできない。逃げ出すと思う。

そう感じるくらいの働きかた・向き合いかたの医師たちだった。

だからよく担当医に言っていた。「先生、もう帰って寝て下さい。先生が倒れちゃいます。」

私はというと、ただただトラに戻ってきてほしくて意識のないトラにずっと笑って話しかけていた。

私にできることはそれしかなかった。

笑って話しかけていれば、笑っているママがトラの夢の中に現れるかもしれない。

ママにまた会いたい、そういう思いで生きる気力を維持してくれるかもしれない。

心臓手術後1ヶ月で緊急的に気管切開手術が決定。

今はただトラ本人の気力だけで保っている状態で、ここからどんどん救命率が落ちてゆくと伝えられたのだ。

こうして呼吸器のせいで気管切開をすることになったが、気管切開したおかげで口から挿管されていた呼吸器が外れトラはものすごいスピードで回復していった。

気管切開した直後は気管カニューレから呼吸器が繋がっていたが、気管切開手術後数時間で「いや呼吸器いらなくね?がっつり自発呼吸できてますやん。」みたくなって呼吸器離脱したくらい超回復であった。

厳密にいえば、気管切開したあとに撮影したCTによって声門下の巨大な浮腫が発覚したのだ。

口や鼻に抜けるはずの気道は、悲しいくらいに塞がっていた。

つまり自発呼吸の能力が落ちていたわけではなく、ただ気道が塞がって呼吸ができなかっただけなのだ。

気管切開孔という空気の通り道さえ確保してしまえば呼吸器は不要であった。

一生気管切開生活かもしれない

心臓血管外科の医師たちはあくまで「一時的」な気管切開で済むと思っていた。

だが、気管切開手術を担当してくれた小児外科の見立ては全く違っていたのだ。

「少なくとも小学校にあがるまでに気管切開を塞ぐことは難しい」

「下手したら一生気管切開での生活」

声門下の浮腫が一時的なもので、腫れが引けばすぐに気管切開を閉じられると思っていた心臓血管外科の先生たち。

だが何度も気管切開をして症例をみてきている小児外科の先生の目には、引くタイプの浮腫ではないことや完全に肉芽として固定化してしまっていること・そして簡単に手術で取り除けるもの・場所ではないことが分かっていた。

そうか。

わたしは、トラの声を突然奪ってしまったんだ。

そしてもう二度とあの可愛い声は聞けないかもしれないんだ。

術後、「ママ」と口を動かしてもなぜか声を出せないことに気づいた息子トラの困った顔と、同時に発生した反回神経麻痺(声帯麻痺)により大好きな食事が食べられなくなった悲しそうな顔。

鼻から管を入れられ、味も感じない栄養飲料を点滴のように入れられる日々。

自立歩行できるトラにとって、1回2時間の栄養注入を1日5回じっとしているのはとてつもなくストレスだったはずだ。

看護師さんが運ぶ食事トレーを指差し「あれは僕の?僕も食べたい」といった顔をするトラに「トラちゃんはまだ食べれないんだ、ごめんね。」と返すやりとり。

3日も経つと食事トレーを指差すこともしなくなった。食に興味を示さなくなった。

そうして変わっていく姿が悲しくて申し訳なくて仕方なかった。

困ったことや悲しいことがあっても一切声が出せない状態で、一生懸命に両手を叩いて人を呼び、唇を合わせてから離す破裂音で「ママ・パパ(どっちもパパに聞こえる)」と話しかけてくるようになった。

当時はひたすら罪悪感とごめんねの気持ちに覆われていた。

私が息子トラのためにできること。

毎日笑って過ごす。

手話を教える(まずは私が覚える)。

食道発声法にチャレンジしてみる。

一生気管切開か、、、。

それでも楽しい人生だと、楽しい日々だとトラが思ってくれるような生活にしよう。

可愛い可愛い大好きなトラが戻ってきてくれた。

そのことに感謝しよう。

頼れる人も施設もない中で、お金以外は頼りにならない夫マスオに相談することもなく、とにかく試行錯誤の日々が始まった。

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ダー子

重症心疾患✕軽度知的障害✕発達障害グレーのハイブリッド男児育児中。できることなら楽しくラクに人生を歩みたい。転んだらだいたい転びっぱなし。夫1人。子1人。

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